トレンドがわかる、買える!大人のためのWebマガジン
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メゾンキツネのスエットに思う、憎めないキツネたち。

数年前に買ったキツネのスエットがお気に入りです。

今の時期は毎日のように着ています。

Maison Kitsuné のものですが、同ブランドは結構なお値段で、胸元にぽちっとキツネがいるだけで数万円という品もある中、これはSALEだったのか、銀座のバーニーズで2万円しなかったと記憶しています。

しかも無数のキツネ。

胸元ポイントのニットに比べたら、一キツネあたりの単価はかなりお安いです。以来、キツネチラシと呼んで愛用しています。(映画『マイ・インターン』に、仕事でパンクしちゃってる女の子が色違いの白を着てるシーンがあります。)

 

これが愛用のキツネチラシ。

 

全体でざっと90匹ほどいます。

 

洋の東西を問わず、キツネは身近な動物で昔話にもよく登場し、賢くて時には油断ならない悪者にもなる動物としておなじみです。この女狐め!なんて言い方もありますね。実際に聞いたことはないけど。

 

ずる賢さと賢さはどう違うんでしょう。

 

ずる賢いやり方は、人を出し抜くとか騙すとか罠にはめるとかであからさまですけど、賢いやり方っていうのは、人間性を疑われるようなことをするわけではなく、効率よく物事を進めることなのかもしれません。

相手の面子を潰さず、不快にさせず、厄介な人をすっとかわして話をまとめるとか。いますね、上手な人。

側で見ていると「おお、なんと効率的!」と感心しますが、ある種の逃げ足の速さというか、情のなさを感じることも少なくありません。

ニコニコして誰にでも愛想がよく、実際話してもほんとに感じのいい人で、するっと滑っていく感じ。

ドライに見えるけど、持続可能性な働き方という点では、すべてに感情移入するよりもいいやり方かも。

何かを生真面目に大切にするあまり、気持ちにばかり目がいって本来の目的を見失うことがあります。

例えば、あるプロジェクトを成功させようと集まった仲間なのに、いつの間にか「こんなに真剣にやっている自分を理解してほしい!」という個人の要求が強くなって、チームがバラバラになってしまうとか。

仕事を生きがいにしている人や、働くからには輝いていたいと思う人にはこの傾向が強い気がします。私も20代の頃はそれでずいぶん悩みました。

 

今は女性も働くのがデフォルトになったけど、私が仕事を始めた頃は、働く女性はかっこいいと言われていました。

つまり、仕事は(特にフルタイムの仕事は)女性にとって自分のステージを上げるための特別なオプションだったんです。

だから、自意識過剰にならざるを得ませんでした。

働いてる私、ちゃんと輝いてる?いつも楽しくて、他人から見ても幸せそうじゃなきゃいけないんじゃないかしら。

 

でも当然、いつも輝いていられるわけがありません。

働くことは日常ですから。

だから、焦りました。

承認欲求ばかりが募って、周囲は私をわかってくれない!とふてくされたり。

 

考え方が変わったのは、育休を取って仕事のペースを落とさざるを得なくなってからです。

仕事は子供を育てるためのお金を手に入れる手段。

自分が必要なお金が手に入って、やったことが誰かの役に立つのならそれ以上望むことはないと考えるようになったのです。

当時は仕事がなくてアナウンス部で電話取りをしており、後輩の男性から「仕事もないのにいつまで会社にいる気ですか」とマタハラを受けましたが「これも立派な仕事だから文句を言われる筋合いはない」と思っていました。

私が電話を取らなくちゃ困る人がいるのだから。

「こんなに頑張って電話をとっている私をわかって!!」という気持ちもありませんでした。

初めての育児と仕事の両立で頭がいっぱいで、それどころではなかったのです。

 

はたから見たら、仕事よりも私生活を優先しているずるい女に見えたのかも。

「子持ちはやる気がない」と言っている女性の先輩の声も耳に入りました。

けど、会社の制度で規定されている育児時間をとって時短で働くのは労働者の権利だし、与えられた仕事はちゃんとこなしているのだから、何も問題ありません。

やる気があるかないかと言ったら、むしろそれまで以上に働く気はありまくりでした。

子供を食べさせなくてはならないので。

だけど深夜業務や地方出張など子供がいるからできない仕事があるのも事実。

アナウンサーとしての成功を求めてがむしゃらに頑張るのも仕事だけど、会社員として淡々と業務をこなすのも仕事です。

それをやる気のあるなしの問題にするのは違うと思いました。

 

子育ての手が離れた今となっては、私にも彼女たちの気持ちはよくわかります。

例えば、みんな忙しい中「打ち合わせどうします?」って必死にすり合わせてるのに、毎度「子供の迎えだから無理です」って言われると、うーん・・・ってなるんです。

自分もそうだったのに!

そういう時には思い出すようにしています。

生き物が死なないように本気で向き合うのは片手間ではできない仕事。

社会的な仕事と命のケアと両方をやっているのだから、大変だよねと。

介護や病気の治療でもそうですね。

 

キツネは人を化かす動物と言われているけど、自分を守るために化けることもありますよね。

涼しい顔をしているように見えて、本音は必死だったり、輝いているように見えて傷ついていたり。

ドロンドロンて鏡の前で姿を変えて仕事に出かけていくけれど、家に帰ればみんなおんなじ疲れた顔をしているのかも。

憎めないよね、キツネたち。

 

 

ちなみにこちらも愛用の厚手スエット。

ISABEL MARANT ETOILÉ のもので、胸にカラテと書いてあります。空手です。

収録にて。麻のワンピは COATE(コート)、ピアスは AFTER SHAVE CLUB(アフター シェイヴ クラブ)です。

 


 

Article By Keiko Kojima

小島慶子(タレント、エッセイスト)
仕事のある日本と、家族と暮らすオーストラリアのパースを毎月往復する出稼ぎ生活。 『るるらいらい~日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)、『解縛(げばく)』(新潮社)、小説『わたしの神様』(幻冬舎)、小説『ホライズン』(文藝春秋)、新刊に『幸せな結婚』(新潮社)がある

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