トレンドがわかる、買える!大人のためのWebマガジン
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人生は、思い出も今も香りとともに。小島慶子

一番古い香りの記憶はなんですか。

私は、灯油ストーブの匂い。

団地の売店で、肉まんやあんまんを並べたガラスケースを見上げているのです。

ガラスの内側についた水滴と、ストーブのオレンジ色の火。

母が会計をすませるのを待っているのか、まだ4歳になったかならないかだったはずだけど、何やら人恋しく懐かしいような気持ちで胸を切なくしていました。

オーストラリアで生まれた私にとっては初めての異国だった日本。なのに五感に訴えるものすべてに郷愁を覚えたのは不思議なことでした。

 

 

母は、おしゃれして出かける時には香水をつけていました。

ゲランのミツコ。

欧州で貴族となった日本人女性の名を冠した香りはビロードのように重厚で甘くオリエンタルな香りでした。

本当にお姫様が使っていそうなクラシカルなフォルムの厚手のガラス瓶に入っているものです。

母のジュエリーが入っている引き出しには、父が出張のお土産に買ってきた香水の小瓶がたくさん入っていて、ニナ・リッチのレール・デュ・タンやディオールのディオリッシモなど、いろんな香りを嗅ぎ比べることができました。

瓶の形も様々で、いくら眺めても飽きませんでした。

 

 

あれは当時住んでいた香港の小さなサンリオショップに行った時のこと。

こども用の香水が売っていたのです。

青草にスズランが混じったような涼しい匂いに胸が高鳴りました。母にねだって買ってもらった、それが人生で初の香水です。

 

 

中学生の時は、ティーン向けの安いコロンを使っていましたが、石鹸のような香りで、すぐに消えてしまいます。

高校生になると、9歳年上の姉が、使わなくなったユニセックスの香水を譲ってくれました。

パコ・ラバンヌのフレグランスでしたが、瑞々しく柔らかい香りで、高校生がつけていても違和感がないので愛用していました。

友達が「なんか、スイカの匂いがする」とカブトムシみたいに寄ってきて、ちょっと嬉しかったな。

 

 

そのころは朝出かける前にシャンプーするのが大流行しており、登校時間には友達の洗い立ての髪からSALAの香りがしたものでした。

体育の後は制汗スプレーで教室中がむせかえるようだったし、女子校って、いろんな匂いがしたな。

女の子たちの甘い体臭と安い香料と、古い校舎の匂いが混じった懐かしい記憶です。

 

大学生になると世間ではディオールのプワゾンがヒットしていたけど、さすがにバブル先輩のような迫力ある香りには手が出せず、バイト代で初めて買ったのは当時新作だったディオールのデューン。

砂丘という名のとおり、暮れ方の砂漠から立ち上る陽の残り香のような、甘く異国情緒を感じさせる名作です。

初めて大人の香りをまとった時の誇らしい気持ちは忘れられません。

 

 

働き始めてからは、ゲランのシャンゼリゼをよくつけていました。

明るくフレッシュなミモザの香りは、恋に仕事に忙しかった当時の気分にぴったりでした。

 

のちに夫となる彼と出会ったのは25歳のとき。

当時流行っていたカルバン・クラインの CK ONEを上手につけていて、まんまとその香りに惹かれて付き合い始めたのです。

その後はブルガリオムや、名前は忘れたけど私がプレゼントしたフランスの海の香りの香水などを経て、今はシャネルのエゴイストプラチナムをつけています。

 

 

私は20代後半からは柔らかく自然な香りに惹かれ、アニック・グタール(現グダール)やサンタマリア・ノヴェッラにはまって数種類を日によって使い分けていましたが、ここ数年はフランシス・クルジャンに夢中です。

 

パースで愛用中のフレグランス。

 

冬場は華やかなプリュリエル、夏場は爽やかなアクアセレスティア・フォルテ。

クルジャンの香りは実に複雑で、時間に伴う変化だけでなく、なんというか、いくつかの香りのトーンが常に入れ替わっているような、角度によって表情が変わるような、つまり本当に3Dなのです。

 

香りというのは気候風土と密接に関わっているようです。

同じクルジャンでもなぜかオーストラリアにいるときはアラローズという陽気なバラの香りがしっくりきます。

それと瑞々しく開放的なアニック・グタールのオーダドリアンのパルファン。

東京での生活よりものんびりとしているせいか、複雑なものよりもハッピーで元気なトーンがいいみたいです。

 

 

実は先日、馴染みのヘアメイクさんが、手首からそれは素敵な香りをほのかに漂わせていました。

聞けば、六本木のグランドハイアットに南米の香りをアレンジしたフレグランスのお店(FUEGUIAフェギア)を見つけたとのこと。

南米!未知の香り!それは行かねば。

のどかなパースもいいけど、世界中のいい香りが手に入るのは、東京ならではですね。

都会に疲れることもあるけれど、ここにいれば世界に出会えるというのは、やっぱり魅力だと思います。

 

先日のロケではアンテプリマを着ました。ワンピースとロングスカートのレイヤード。

これは Room no 8(ルームエイト)のセットアップ。ありそうでない大人可愛いドットです。

 

これもアンテプリマ。神社の境内でロケでした。

これはBOSSです。プリーツ使いがとっても美しいスカート・

 


 

Article By Keiko Kojima

小島慶子(タレント、エッセイスト)
仕事のある日本と、家族と暮らすオーストラリアのパースを毎月往復する出稼ぎ生活。 『るるらいらい~日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)、『解縛(げばく)』(新潮社)、小説『わたしの神様』(幻冬舎)、小説『ホライズン』(文藝春秋)、新刊に『幸せな結婚』(新潮社)がある

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