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母から譲り受ける宝石のきらめき

幼い頃、母の宝石箱をこっそり覗くのが大好きでした。

 

水に溶いたミルクみたいなムーンストーン、十字の星を浮かび上がらせるスターサファイア、深い深い紅のルビー、野性的なきらめきを放つキャッツアイ・・・

 

どれも父が出張先で買って来たものです。

商社で鉄鋼原料を扱っていた父は、世界のさまざまな鉱石が産出される地域に出かけて行っては、母にお土産を買って帰りました。

石だけのこともあれば、美しい指輪やペンダントに仕立ててあることも。

 

私の人生最初のジュエリーは、7歳の時に父がくれた薄緑色のヒスイのペンダントヘッドです。可愛い目玉のついたフクロウのペンダント。

端が欠けてしまったけど、ずっと宝物でした。どこに行ってしまったのかな。

 

転勤先のシンガポールや香港では接待のパーティーも少なくなかったから、母はよく宝石をつけては父と出かけて行きました。

私は支度をする母を眺めながら、宝石箱の隠し場所をちゃんと覚えていて、両親が出かけた後に取り出して眺めるのです。

丸いムーンストーンをそっと口に入れて、飴玉みたいに舐めたことも!

 

父以外の人から初めてもらったジュエリーは、青紫色のタンザナイトの指輪でした。

大学1年生。彼と別れた時にどこかに投げてしまったけれど、とっておけばよかったな。

今は夫がくれたエタニティリングや出産記念の指輪など、ダイヤモンドばかりで色石はつけません。

 

そういえば、母の宝石箱にはダイヤのリングはありませんでした。

婚約の時にもらったけれど、物いりのときに売ってしまったのだと話していたような。それとも若い頃の父の懐具合が厳しかったのかな。

そういえば二人とも、ごく普通の結婚指輪すらつけていませんでした。

 

時折母に会いに行くと、もう入らなくなったからと、父が誂えた指輪を譲ってくれます。

目を見張るような鮮やかなオパールや、あの懐かしいスターサファイア。

こんな華やかなリングをつける機会はなかなかないけれど、私の右手の薬指にぴたりとはまります。

 

今になって改めて眺めると、こんな素敵な石を妻に贈った父の愛情や、それを大切につけていた母の思いにしみじみします。

私にはわからない、二人の歴史があるんだな。

父と母がどんな恋をして、どんな修羅場をくぐったのか、私は知りません。

多分、この先も知らないままでしょう。

 

父が母に贈ったスターサファイアとオパール。大事な宝物です。

サイズはピッタリ。石が重いのでつけると気持ちが改まります

 

それでもこの石をじっと見つめて、両親が積み重ねた時間に思いをはせる時、きっと私は出会っているのだと思います。

ありがとう、と微笑んで手をかざす母と、それを照れ臭そうに眺める父に。

そっと指を通すと、かつて母の瞳に映った輝きが、私を照らします。思わず細めた目尻にはもう、たくさん泣いて笑った月日が刻まれているのです。

 

ちょうどあの頃の母のように。

 

 

パースの自宅の近所の海。まさにオパールのように輝くインド洋です。父母はかつてこの地で私を産み育てました。

こちらはLIFE WITH FLOWERSの服。縁に入った鮮やかなグリーンが効いています。NHKにて。

 


Article By Keiko Kojima

小島慶子(タレント、エッセイスト)
仕事のある日本と、家族と暮らすオーストラリアのパースを毎月往復する出稼ぎ生活。 『るるらいらい~日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)、『解縛(げばく)』(新潮社)、小説『わたしの神様』(幻冬舎)、小説『ホライズン』(文藝春秋)、新刊に『幸せな結婚』(新潮社)がある。

 

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